
熱で変形する記録技術
熱可塑性記録、聞き慣れない言葉かもしれません。これは、特殊なプラスチックの膜に電子線を当て、熱を加えることで画像を記録する技術です。真空の容器、真空チャンバーの中で、熱で柔らかくなる性質、つまり熱可塑性のあるプラスチックの膜に電子線を照射します。まるで、光をレンズで集めるように、電子線を正確に制御することで、膜の上に静電気の模様を描きます。この静電気の模様は、言わば、これから焼き付ける画像の設計図のようなものです。
次に、この静電気が帯びた膜に熱を加えます。すると、熱で柔らかくなった膜の表面は、静電気の模様に応じて変形していきます。静電気の強い部分ほど膜の表面は大きくへこみ、静電気の弱い部分ほどへこみが浅くなります。ちょうど、熱いロウソクに針で模様を刻むように、プラスチックの膜に微細な凹凸が形成されるのです。こうして、電子線によって描かれた静電気の模様が、熱によって物理的な凹凸へと変換され、画像として記録されます。
この技術の最大の特徴は、非常に高い解像度で画像を記録できることです。そのため、かつては、印刷の版を作るための原版作成や、衛星写真、電子顕微鏡写真など、高い精度が求められる特殊な用途で利用されていました。肉眼では見えないような微細な情報まで記録できるため、科学技術の発展にも貢献してきた技術と言えるでしょう。まるで、ミクロの世界をそのまま写し取る魔法の鏡のようです。近年は他の技術の進歩により、この技術を見る機会は少なくなりましたが、かつての技術の粋を集めた、高度な画像記録技術であったことは間違いありません。